一般社団法人 放送人の会

放送人グランプリ2021(第20回)


―コロナ過により、7月31日(土)午後2時、無観客で贈賞式を行いました。
(詳しくは、会報92号/9月10日発行をご参照下さい。)―


毎年度の放送番組の中から、「放送人の会」会員が推薦した番組を審査し、顕彰する。"放送人の放送人による放送人のための賞"。

【グランプリ 大賞】 金本麻理子
 戦争という巨大な力に振り回される市民の姿を、自らカメラを回し追い続けるディレクター・金本麻理子さんの仕事が、2020年は「レバノンからのSOS~コロナ禍 追い詰められるシリア難民~」(NHKBS1スペシャル7月)、「世界は私たちを忘れた~追いつめられるシリア難民~」(NHKスペシャル 10月)という形で結実したことを評価する。
 金本ディレクターの人の懐に飛び込む能力、特に家庭の中に入りこみ日常を撮影する力は傑出している。今回も「撮る力」がフルに発揮され、売春、臓器売買、DVなど壮絶な難民キャンプでの実態が記録された。撮影中に起こったコロナ感染拡大は、弱者として切り捨てられる人々の姿をさらに炙り出した。世界で最も過酷な現場に、一人カメラを持ち込み、女性と子どもに寄り添い、映像記録した意義は大きい。
 金本氏には、原点となる二つの番組がある。一つは「マニラ市街戦~死者12万 焦土への一ヶ月~」(2007年)、この取材を通し、戦争を大上段に構えず一人の市民とその家族を通し描いて行く覚悟が生まれた。もう一つの原点が「お母さんに会いたい~フィリピン・ムスリムの兄と妹~」(アジアに生きる子供たち 2004年)。金本氏はこのシリーズを通して自らカメラを回す手法を身につけた。2020年放送された番組は その一つの結実である。
<経歴>
1990年代から、主にNHKBSでドキュメンタリー作品を制作。/2004年NHKBS1・BSドキュメンタリー「アジアに生きる子供たち」シリーズの「お母さんに会いたい~フィリピン・ムスリムの兄と妹~」で注目される。
(主な作品)2007年NHK BS・ハイビジョン特集「証言記録 マニラ市街戦」。/2011年NHK BS戦争証言スペシャル「運命の22日間~サハリン(樺太)はこうして占領された~」。/2017年BS1スペシャル「父を探して~日系オランダ人 終わらない戦争~」。/2020年NHKスペシャル「世界は私たちを忘れた~追いつめられるシリア難民~」。2020年NHKBS1「レバノンからのSOS~コロナ禍 追いつめられるシリア難民~」等。以上の作品で数々の作品賞を受賞。
2007年度 放送ウーマン賞。2010年、制作会社「椿プロ」を設立、現在に至る。
【グランプリ 優秀賞】 南海放送ラジオ報道特別番組「感染-正義とは何か-」
 この番組は、新型コロナをめぐる差別をテーマにしたもので、5月30日に南海放送ラジオで放送された。2020年3月2日、愛媛県最南端の人口およそ2万人の愛南町で、県内初となる新型コロナウイルスの感染者が確認されて以降、県内の雰囲気は一変する。
直接的、間接的に感染への恐怖から根拠のない誹謗中傷や差別も拡大し、「感染者は誹謗中傷に耐えられなくなって自殺したらしい」という噂が飛び交い、感染者がその日のうちに特定されることもあった。精神科病院や高齢者施設でクラスターが発生すると、「こんな施設閉めてしまえ」という声も出るなど、ウイルスの感染スピードを遥かに超える速さで、誹謗中傷などの人権侵害が拡散していく。
愛媛県内で起こった複数の問題を起点に、約100年前の四国お遍路さんに対する感染症差別やハンセン病患者の過去の歴史を紐解きながら、差別と感染症のつながりを深く掘り下げていく。新型コロナウイルスの本当の恐ろしさは、ウイルス自体だけではなく、人間が人間の思考を失うことである。人権侵害は、それぞれの「正義」に基づいて広がる。本来は人を守るはずの「正義」が、人を攻撃していく。
この緊急特番は、丁寧な取材をもとに、感染症に怯える人間の闇の部分を描き、新型コロナウイルスから人の「正義」とは何かを問う、ラジオドキュメンタリーの傑作となった。
 放送日:2020年5月30 日(土)、
 山内孝雄(企画・統括)、植田竜一(ディレクター・取材)、中武正和(取材)、永野彰子(ナレーション)
【グランプリ 優秀賞】 人生最高の贈りもの
 東京で一人暮らしをする父(寺尾聰)のもとに、長野で夫(向井理)と暮している筈の一人娘(石原さとみ)が突然帰ってきた。帰省の理由も、いつまでとの時期も言わずに…。戸惑う父は娘の真意を掴めない。実は、娘は、余命わずかと宣告された残りの人生を、夫と父、それぞれと過ごそうとしていた。  娘と父のぎこちない関係は、二人の俳優の名演で微笑ましく楽しく描かれる。多くの食事と料理のシーンは、平和に続く日常性を想起させるが、永遠に続く日常などはどこにもない。必ず来る日常性の終わりが絶えず忍び込んでいる。温かさや優しさの奥に静かな悲しみがある。大事件や激しい波瀾万丈のドラマ展開はなくても、人間の心の機微に優しく触れていく人間の繋がりが伝わってくる。
 番組のラスト、別れは必ず訪れる。長野に向かう娘は、『大丈夫』という言葉に万感を込めて明るく元気に父と別れる。滲み出る石原さとみの涙は美しい。
 最近は少なくなったが、日本のホームドラマの温かい心髄を思い起させる作品である。石橋冠演出、岡田惠和脚本、八木康夫プロデューサー、テレビドラマの達人たちと、そのスタッフの努力、更に実現困難な、この種の企画を制作放送したテレビ東京、ホリプロの英断も含めて、称賛したい。
 放送日:2021年1月4日(月)「新春ドラマスペシャル」、制作放送:テレビ東京
 脚本:岡田惠和、プロデユーサー:中川順平、田淵俊彦、八木康夫(オッティモ)、平部隆明(ホリプロ)、演出:石橋 冠
【グランプリ 優秀賞】 ワタシたちは ガイジンじゃない!
 100年前、新しい天地を求めブラジルに渡った日系ブラジル人の3世4世たちが、30年前、バブル期の労働力を海外に求める日本の要請で祖国に戻り、定住を始めた。
 以来、彼らは経済の荒波に翻弄され、日本社会から、時には差別切り捨ての対象にされるなどの辛酸をなめてきた。
 <ものづくり中部>の中心地名古屋は、東京に次いで外国人労働者が多く、在日ブラジル人も多く定住する。彼らが描く夢と厳しい現実を継続取材し、多くの番組を制作してきたNHK名古屋放送局は、今回、彼らが住む団地に俄か舞台を設け、宮藤官九郎の脚本で、イッセー尾形が彼らの30年間のドラマを一人芝居の形で演じ、それを団地のブラジル人自身が観覧するという、ユニークな中継スタイルの番組を制作した。
 慣れぬ祖国に戸惑いながら、懸命に馴染もうとする団地の生活、職を失い孤独死する男の独白など、演じられる一人芝居と、それを見る団地のブラジル人の表情から、「ガイジンじゃなく同じニンゲンじゃないか」という、彼らの心の叫びが聞こえる。コロナ禍の中で、弱者にこそしわ寄せがいく、現代の病巣にまで繋げて見せてくれる番組であった。
 これまでの取材の深さに加え、この番組スタイルを着想したドキュメンタリー、ドラマ双方の<垣根を超えた制作者の知恵の交換>と、宮藤官九郎とイッセー尾形という二人の才能を結び付けた<新しいテレビを目指す努力>を称賛したい。
 放送日:2020年12月29日、放送:NHKBS1、制作:NHK名古屋放送局
 制作統括:板垣淑子-、三鬼一希、取材:植村優香、演出:川上 剛、脚本:宮藤官九郎、出演:イッセー尾形ほか
【グランプリ 特別賞】 市村 元
 市村 元(はじめ)氏は、村木良彦氏から引きつぎ、13年という長きにわたり「地方の時代」映像祭のプロデューサーを務めてきた。1980年川崎市で始まった「地方の時代」映像祭は、2007年から大阪吹田市の関西大学を会場に開かれている。放送局、ケーブルテレビ、市民・学生、高校生の4つの部門に分かれ、地域的にも年齢的にも実に幅広く日本の映像文化の発展に寄与してきた。
 市村プロデューサーの仕事は資金集めから、作品募集、300点を越える番組審査・贈呈式の段取り、およそ10日間に及ぶ一般公開・シンポジウムの開催、その記録のまとめ・報告書作りと実に多方面にわたり、まさに放送事業の総合的な力量が必要とされるものである。TBS時代は、パリ支局長、「ニュース23」「報道特集」のプロデューサーとして、テレビユー福島常務取締役という地方局経営者として幅広い人脈を築き、現職の関西大学客員教授としては若い世代の育成に大きな力を発揮してきた彼の幅広い経歴は、そのまま「地方の時代」映像祭に遺憾無く生かされている。
 「地方の時代」映像祭が昨秋第40回を迎えてなお、その規模・内容を維持し発展させているのは、プロデューサー市村氏の並々ならぬ熱意と持続力、そして放送人としての豊富な経験と類い稀なる能力によるものである。
<経歴>
TBS報道局記者、パリ支局長を経て、「ニュ-ス23」担当部長、「報道特集」プロデューサーを歴任。その後テレビビュー福島常務取締役。2009年から、「地方の時代」映像祭プロデューサー、関西大学客員教授。
【グランプリ 特別賞】 NHK東日本大震災プロジェクト
 震災直後に組織横断的プロジェクトとして発足した『NHK東日本大震災プロジェクト』は、幅広い視野で震災に向き合い、被災地の復興支援を目指して10年にわたり継続的に活動してきた。被災地を忘れないための放送、被災地に笑顔を届けるイベントのほか、全国の人々と被災地をつなげるキャンペーンや、世界に震災後の日本を伝える取り組み、さらには震災を記録し将来の防災を考える企画など、その活動はまさに公共放送としての真価を発揮するものである。
 毎週日曜朝の「明日へ つなげよう」。レギュラーシリーズ『証言記録 東日本大震災(97回)』、『ふるさとグングン!』、『サンドイッチマンの東北酒場で逢いましょう』のほか様々なテーマやジャンルで制作、東北を始め大阪や熊本など地方局も参加し、およそ370本を放送。月~木5分の「あの日 わたしは~証言記録 東日本大震災~」は、2012年1月に第1回を放送後、およそ1,100本を放送した。「復興支援ソング『花は咲く』キャンペーン」では、著作権者の厚意で2億9,700万円余を義援金として被災地に届けている。また、「『こころフォト』プロジェクト」や、ATP加盟各社制作の「『未来への手紙』シリーズ」。また、事業と連携した「大型イベント『公開復興サポート』」では人気番組の公開収録や展示を16回開催し、のべ11万人近い来場者となり、地元の皆さんに楽しんでいただくと共に、開催地の魅力を全国に発信してきた。
 この大きく豊かなプロジェクトの活動と、それを支えたスタッフ、事務局の皆さんすべてに、敬意を表して『グランプリ特別賞』を贈りたい。
<関連部局・団体>
東日本大震災プロジェクト事務局、放送総局、視聴者総局、地方局などの各部局、
NHKエンタープライズ、NHKエデュケーショナル、グローバルメディアサービスなど関連団体、各制作プロダクション団体。


過去開催分はこちらから

ページのトップへ戻る