一般社団法人 放送人の会

放送人グランプリ2023(第22回)


-贈賞式2023年5月20日(土)15時 千代田放送会館-

毎年度の放送番組の中から、「放送人の会」会員が推薦した番組を審査し、顕彰する。"放送人の放送人による放送人のための賞"。

【グランプリ 大賞】 ETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」
放送日:2023年2月25日(土)23:00~23:59(NHKEテレ)
プロデューサー:真野修一、梅原勇樹、久保暢之、ディレクター:持丸彰子、青山浩平

 昨年、グランプリ優秀賞を受賞したスタッフの継続取材から、内部告発による「滝山病院」内の映像や音声記録、患者リストを入手し、1年に及ぶ地道な調査取材で、社会の中で頼られる存在の精神科病院の「闇の実態」をあぶり出しました。家族が頼り、生活保護の行政が頼り、他の精神科病院も頼る。「死なないと退院できない病院」は日本社会の棄民政策でもあります。

 今回、特筆すべきは、問題の解決に一歩でもつながるようにと、番組単体ではなく、ニュースと連動したことです。その結果、大きな注目を集め、警察が捜索し、看護師が患者への暴行の疑いで逮捕され、略式起訴になり、監督する東京都も調査せざるを得なくなりました。これからの公共放送が担うべき調査報道として、画期的なこの番組に対し大賞を贈賞します。
【グランプリ 優秀賞】 「生涯野球監督 迫田穆成~終わりなき情熱」
放送日:2022年11月27日(日)20:00~21:00(中国放送・RCCラジオ)
プロデューサー:増井威司(たけし)、取材・構成・ナレーション:坂上俊次

 野球の楽しみ方のひとつに、監督が何を考えているか推理するというのがあります。それは優れた番組を聴きながらその展開を想像することに非常に似ています。想像は何度も裏切られますが、それが野球のそして番組の面白さに他なりません。
 このドキュメンタリー番組は、高校野球界稀代の名将である迫田穆成(さこだ よしあき)監督の采配とその生き方信条を深い取材で追いかけ、巧みな構成力で描き切った、まさに野球の醍醐味に迫った力作です。
【グランプリ 優秀賞】 ETV特集「久米島の戦争~なぜ住民は殺されたのか~」
放送日:2022年8月20日(土)23:00~23:59 (NHKEテレ/NHK沖縄)
プロデューサー:東野真、小池幸太郎、生田寛、ディレクター:奥秋聡

 沖縄戦の末期に起きた「久米島の虐殺」。日本軍守備隊約30人が守る島に1000人余りの米軍が上陸した。ほとんど交戦はなかったが、敵に通じていると疑った日本軍は島民20名を殺害した。戦後、隊長はやむを得ない措置だったと語り、島民は沈黙した。76年後の2021年、悲劇を風化させてはならないと島民が立ち上り、発刊された「久米島町史」で87人が証言した。米軍と接触するとスパイと見られるという疑心による悲劇は、久米島だけでなく、地上戦が行われた沖縄本島でもあったが、資料が失われているため、多くケースでは未解明になっている。資料の掘り起こしと丹念な聞き取り調査を経てたどり着いた番組の最後に紹介される加害者の娘の証言が胸を撃つ。
 戦時にこそ露わになる、差別や交錯する加害被害の構造は、沖縄の戦争が過ぎ去った過去ではないことを教えてくれる秀作です。
【グランプリ特別功労賞】 吉田 拓郎
 60年代の「政治の季節」の終焉と共に始まる70年代の新旧の価値観がぶつかり合う嵐の時代に船出した吉田拓郎氏は、以来、新しい「音楽界の常識」を作り出しました。「全国ツアーリサイタル」「大規模野外ステージコンサート」「カバーアルバム」などの原型は、まさに、この時期の彼によって作られたものです。
 また、テレビや雑誌などのメディアには露出せず、聴き手との接触はコンサートとラジオだけと主張した彼は、1970年代初期の深夜放送全盛期から昨年までの半世紀以上にわたり、「パックインミュージック」「セイヤング」「オールナイトニッポン」を始め数多くのラジオ番組に於いてパーソナリティとして若者たちと熱い交流を持ち、多大なる影響を与え続けました。
 さらに「音楽界の革命児」としての存在感はラジオ放送史の財産でもあります。昨年、活動を休止すると宣言した吉田拓郎氏が成し遂げた多大な功績を讃えます。
【グランプリ 特別賞】 「無理しない ケガしない 明日も仕事 ~新根室プロレス物語~」 制作チーム
プロデューサー:吉岡史幸、カメラマン:芦崎秀樹
放送日:2021年12月19日(日)14:00~ (北海道文化放送) なお、現在映画化企画中。

 新根室プロレス物語は、さびれゆく過疎地で暮らすフリーカメラマンと地元放送局が絶妙なタッグを組み成し遂げた、笑いあり、涙ありのエンターテイメント・ヒューマンドキュメンタリーの秀作です。
 なかでも、引きこもりや心を病んで孤独な人たちが自虐ネタとも思える登場人物たちの会話は秀逸で、過疎地で生きる人々が互いを思いやりながら「したたかに生きる姿」を捉えた映像は温かで、同じ町で暮らす撮影者にしか記録できない感動的なものでした。
 地方放送局はかつてないほど厳しい経営環境にあります。無理しないケガしない明日も仕事 新根室プロレス物語のレスラーのように、金も、人も無いなかで、地元放送局が地域の人々とともに、如何に地域の物語を拾い、地域ジャーリズムの持続可能性を探っていくか、今後も期待したい。制作にあたったプロデューサーとカメラマンを評価します。
【グランプリ 特別賞】  「報道特集」(TBS)
放送日:毎週土曜日17:30~18:50
キャスター:膳場貴子、村瀬健介、上村彩子、日下部正樹、金平茂紀。
ディレクター:巡田忠彦、小嶋修一、佐古忠彦、河北敏之、瀬戸雄二、川上敬二郎、武井一裕、山崎直史、廣瀬誠、成田広樹、中道秀宜、兼井理絵、三宅美歌、加古紗都子、永野真代、寺田裕紀。
編集長:曺 琴袖(ちょう くんす)、プロデューサー:山岡陽輔、吉岡弘行。

 『報道特集』は、1980年、週末のニュース情報番組(=JNN「報道特集」)としてスタートし、以来40年以上に亘り、変わりゆく世界や日本の<今>を伝え続け、視聴者国民の<知る権利>に応えてきました。
 その時々の課題やニュースの裏側に潜むテーマについて、記者、プロデューサー、そしてキャスターが現場に出向き、深く切り込んだ取材や調査によって得た事実や人々の生の声を自らの言葉で伝えます。
 昨年のウクライナ取材でも、戦争の悲劇を伝えつつも、国家が発信するフェイクニュースというメディアの危機を取り上げるなど、その伝え方は多角的でタイムリーです。
 また国内の問題も、旧統一教会問題や放送法関連文書の問題も、政府や権威筋の発表を鵜吞みにせず、必ずその裏を取材し、時によっては、当たり前の常識とは異なる情報を提供してきました。

 まさに、報道特集の<肝>は、不偏不党、真実及び自律を保障することにより、放送による表現の自由を確保し、放送が健全な民主主義の発達に資することとする、民主国家日本の放送メディアの原点に存在する『放送法』の精神に最も合致しています。
 この『報道特集』を制作し続ける皆さんに、グランプリ特別賞を贈ります。


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