一般社団法人 放送人の会

放送人グランプリ2024(第23回)


―贈賞式2024年5月25日(土)15時 千代田放送会館(予定)―

毎年度の放送番組の中から、「放送人の会」会員が推薦した番組を審査し、顕彰する。"放送人の放送人による放送人のための賞"。

【グランプリ 大賞】 NHKスペシャル・ETV特集 「“冤罪”の深層」シリーズ 取材・制作チーム
放送日:2023年9月24日放送 NHKスペシャル「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」
2023年12月23日放送 ETV特集「続報 “冤罪”の深層~新資料は何を語るのか~」
2024年2月18日放送 NHKスペシャル「続・“冤罪”の深層~警視庁公安部・深まる闇~」
ディレクター:石原大史、矢内智大、取材:影山遥平、牧野大輝  
制作統括:東野 真、内山 拓、木村真也、撮影:渡瀬竜介、音響効果:日下英介


 さすが、NHKのドキュメンタリーというべき作品です。
 番組は、経済安保の重要性が叫ばれる中、軍事転用可能な機械を中国に不正輸出したとして、民間企業の3人が逮捕・起訴され、そのうちの一人が勾留中にがんで死亡したという事件が、実は警視庁公安部によるでっち上げであったという事実を、内部告発文書から解きほぐし、新たな資料や証言によって冤罪の深層に迫っている。

 あぶりだされるのは、政策の動向を利用し、組織の保全を図る公安部と官僚達の自己保身が冤罪を生んだという事実だ。法令の解釈や定義をめぐって争う経産省や検察とのやりとりや、調書の書き換えや隠ぺい示す証言など、ドラマさながら、息をのむ場面の連続である。

 地道な取材を通じて、公安の闇に迫った番組チームを讃えるとともに、裁判の推移や被告とされた人たちの動きに合わせ、3つの番組をタイムリーに編成したNHKスペシャル、ETV特集の事務局の仕事も評価します。
【グランプリ 優秀賞】 NNNドキュメント’23「いろめがね〜部落と差別~」 山口放送
放送日:2023年11月19日(日)24:55~25:50 (55分)、プロデューサー・ディレクター:佐々木 聰

 インターネット上に被差別部落情報が拡散される。形を変え、その深刻さを増すネット時代の部落差別問題。
 番組は、被差別部落出身を明かし差別と闘う川口さん(44)や彼の家族ら、当事者に寄り添い、彼らの不安や怖れ、怒りや悲しみの言葉、表情を丹念に描き出す。声高に叫ぶのではなく、淡々と事実を積み重ねる番組から、見る者は自身の無関心や無理解こそが差別の根本にあることを知る。

 この傑作は、日頃から人権や差別に目配りを怠らない山口放送の存在と、制作者佐々木聰さんの、人間の善なる性を信じようとする人間観から生まれたに違いない。長年積み重ねたニュース・ドキュメントの集大成、名作映画「ふたりの桃源郷」を生んだ佐々木さんは、今、後輩たちの指導者としての道も進む。今後の幅広い活躍をさらに期待します。
【グランプリ 優秀賞】 「関東大震災から100年・・・112歳の証言と未来への提言」 ニッポン放送
放送日:2023年12月31日(日)19;00~20;00、
スタッフ:遠藤竜也、藤原高峰、石垣哲 ナレーション:上柳昌彦、構成:長谷川浩二

 およそ10万5000人が亡くなった「関東大震災」は昨年で100年目を迎えた。番組は、この大地震を逗子で体験し、112歳で昨年亡くなった高嶋フジさんの貴重な証言を軸に、フジさんはどのようにして、震度7の巨大地震のなか津波をのがれ、命を必死に守り抜いたのか、大震災の真の姿に迫る。
 さらに、30年以内に70%の確率で発生するとされる首都直下地震への備えなどを耐震基準の観点から専門家が提言する。
 折しも、この放送の翌日である今年1月1日、能登半島で巨大地震が発生し、241人が死亡、およそ5万棟の住宅被害が発生し、復旧への作業が現在も続く。地震や津波の猛威を何度も目の当たりにする私たちは、その惨状にさえ慣れてしまう。慣れは「ひとごと」と「無関心」につながり、やがて「風化」する。

 番組は、「地震大国・日本」に生きる国民に、大規模災害に立ち向かう術を考えさせるきっかけとなった。災害に対するラジオメディアの責務を示してくれたニッポン放送とスタッフを称えます。
【グランプリ 優秀賞】 「連続ドラマW フェンス」 WOWOW
放送日:2023年3月19日~4月16日 (全5回)
脚本:野木亜紀子、監督:松本佳奈、音楽プロデューサー:岩崎太整、音楽:邦子、HARIKUYAMAKU、諸見里修、Leofeel、主題歌:Awich「TSUBASA feat. Yomi Jah」(UNIVERSAL J)、
プロデューサー:高江洲義貴(WOWOW)、北野拓(NEP)製作:WOWOW、NHKエンタープライズ、
出演:松岡茉優、宮本エリアナ、青木崇高、與那城奨、比嘉奈菜子、新垣結衣、他

 類い希なる才能と迸る情熱と勇気ある人々が集まって、長く長く語り継がれるべき沖縄の物語が作られました。
 ドラマは、2022年、本土復帰50年の米軍基地の島。2人の女性が連続性的暴行事件の真相を追う。元キャパ嬢の雑誌記者はアジア系米兵の父を持つがその行方を知らない。カフェバーを営むブラックミックスの女性は米兵から性的暴行を受けたと告発する。

 100人以上の徹底取材から生まれたクライムサスペンスは一級品の仕上がりとなって、ジェンダーや人種、世代間の違い、沖縄と本土、日本とアメリカなど、さまざまなフェンスをあぶり出し、それをどう越えて行くかを私たち自身に問いかける。
 社会派ドラマの傑作として大いに讃えます。
【グランプリ 優秀賞】 連続テレビ小説 「らんまん」 NHK
放送日:2023年4月3日~9月29日(26週130回)
脚本:長田育恵、音楽:阿部海太郎、主題歌「愛の花」あいみょん、語り:宮崎あおい、
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志、他、プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、制作統括:松川博敬、
出演:神木隆之介 、浜辺美波 、志尊淳 、佐久間由衣 、濱田龍臣 、本田望結 、遠藤さくら、他

 NHK連続テレビ小説『らんまん』は、長田育恵の優れた脚本と神木隆之介、浜辺美波ら主要キャストの高い演技力、植物を丁寧に取り上げ番組に生命を与えたスタッフたち、阿部海太郎の品格を感じさせる音楽、あいみょんの心に残るテーマ曲など、すべてが幸福な出会いを果たし、視聴者の心を掴んで放しませんでした。

 とりわけ、主人公・槙野万太郎の植物への愛と「雑草という草はない」という思想が、早川逸馬の民主主義と響き合いながらブレることなく一貫して描かれ、名もない草である市井の貧しい人々にも等しく光を当てた点で、優れたドラマでした。
 毎朝、視聴者の心を豊かにしてくれたことに敬意を表し、優秀賞を贈ります。
【グランプリ 特別賞】 宮路 りか ( NBCソシア)
 宮路さんが制作した「大輝、15の春」と「牛と生きる~長崎・鷹島あったか家族」が、昨年と今年、NHKワールドで世界に発信された。地方の民放局の作品が選ばれるのは極めて希だ。「大輝…」はギャラクシー賞などの受賞、「鷹島…」は民教協「日本のチカラ」での文部科学大臣賞に評価された。

 取材対象は、ほとんどが長崎に暮らす“普通の人々”だ。足元にある素材が、宮路さんの手にかかると輝きを増す。
 「大輝…」では一人の障がい者を、番組を変えて何度も紹介した。放送のたびに障がいが改善していく様は、見るものに勇気を与えた。
 宮路さんが、30年に亘り、何気ない地域の出来事や人物を拾い上げ、伝え続けてきたことを通じ、ローカル放送の神髄を見せられる思いがする。
【グランプリ特別功労賞】 松尾 羊一  (ご長男の吉村太郎氏にトロフィーを受け取っていただきます)
 松尾羊一さんは、文化放送で社会教養番組のディレクターとして活躍したのち、放送評論家として、アカデミックな高みからの番組評論ではなく、終始一貫、生活者の視点で、テレビ・ラジオを論じました。
 その筆致は軽妙洒脱、多くのコラムの連載で知られました。
 その内容は毎日放送されるラジオやテレビ番組から日本人を論じ、社会や風俗・世情を読み解くもの、いわばメディア社会論です。

 松尾さんが30年前に言った、「テレビは読む(分析的に批評する)もの」であり、結果、それは放送局への提言になる。テレビを作るのは、見ている我々なのだから」という言葉は、今なお、視聴者と放送局との良き関係を言い当てています。

 常に放送人の真ん中にいて、周囲の後輩に、温かいまなざしを向け続けてくれた松尾さんの存在に感謝し、顕彰します。
【グランプリ特別功労賞】 浜村 淳
半世紀にわたり朝ワイドのラジオ番組「ありがとう浜村淳です」(MBSラジオ)が今年3月で平日の放送を終了し、土曜朝だけの放送となる。
午前8時から平日2時間、土曜日は3時間半、新聞・週間誌情報、ラジオテレビ、映画情報などを伝え続けてきた。
浜村節といわれる「さて皆さん」で始まる柔らかい関西弁は、「難しい言葉を使わず、分かりやすく話す」口調と相まって、長く関西で親しまれてきました。

 浜村さんは、映画評論家としても知られ、見どころやあらすじを講談調で語り、登場人物の衣装や場面の景色まで細かく描写する様は、「本編より面白い」と評されています。

 ラジオを愛して50年、リスナーにサービスを続けてきた関西のレジェンド・浜村さんの、これまでの功労を顕彰し、今後の活躍を期待し、特別功労賞を贈賞します。


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